大阪地方裁判所 平成2年(ワ)9214号 判決 1996年5月27日
原告
株式会社眞壁組
右代表者代表取締役
眞壁明
原告
眞壁明
原告
眞壁和子
原告
眞壁カル
右原告ら訴訟代理人弁護士
坂井良和
同
吉岡一彦
同
岸本淳彦
同
菅原英博
被告
全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部
右代表者執行委員長
武建一
右訴訟代理人弁護士
森博行
同
永嶋靖久
主文
一 被告は、原告眞壁明、同眞壁和子及び同眞壁カルに対し、その組合員又は第三者をして、右原告ら三名の自宅(大阪市平野区<以下、略>)の南側出入口の門から半径二〇〇メートル以内において、街頭宣伝車で押し掛け、スピーカーを使用して演説を行うなどして、右原告ら三名の平穏な生活を妨害したり、名誉を毀損したり、誹謗中傷する一切の行為をしてはならない。
二 被告は、原告株式会社眞壁組に対し、金八五万五六〇〇円、原告眞壁明に対し、金三六万円、同眞壁和子及び同眞壁カルに対し、各金二四万円及び右各金員に対する平成二年一二月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告らの負担とし、その一を被告の負担とする。
五 この判決の第二項は、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告株式会社眞壁組に対し、
(一) その組合員または第三者をして、同原告の取引先に対し、同原告との取引を行わないことまたは同原告との既存の取引にかかる契約を解除することを要請する旨を記載した書面を送付、持参させるなどして、同原告の営業を妨害してはならない。
(二) その組合員または第三者をして、同原告との契約により生コンクリート会社が同原告の取引先の工事現場へ生コンクリート及びその材料を搬入するのを実力をもって妨害させてはならない。
2 主文二(ママ)項と同旨。
3 被告は、原告株式会社眞壁組に対し、金一億二二四一万五六五六円、原告眞壁明、同眞壁和子及び眞壁カルに対し、各金一一七万五五〇〇円及び右各金員に対する平成二年一二月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 第3項につき仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告株式会社眞壁組(以下「原告会社」という。)は、肩書地に登記簿上の本店を置き、大阪府泉大津市(以下、略)に事務所を構える建築材料の製造販売業、砂利採集業、倉庫業、生コンクリートの製造販売業、その設備の賃貸業などを目的とする会社である。しかし、生コンクリートに関しては、原告会社が自らこれを製造することはなく、他社が生産した生コンクリートを購入し、原告会社の取引先である建設業者やゼネコン(大手総合建設業者)の依頼を受けた商社などからの注文に応じて、これを販売することを業務内容としており、原告会社自身もいわば商社としての営業を行っているにすぎない。
原告眞壁明(以下「原告明」という。)は、原告会社の代表取締役であるが、大阪市平野区(以下、略)に自宅を所有し、右自宅に妻の原告眞壁和子(以下「原告和子」という。)及び姉の原告眞壁カル(以下「原告カル」という。)とともに居住し、生活している。
被告(以下「被告組合」ともいう。)は、セメント、生コン産業及び運輸、一般産業で働く労働者によって組織された労働組合で、武建一(以下「武」という。)が代表者である。
2 原告会社は、前記のとおり、生コンクリート部門に関しては、他社が生産した生コンクリートを購入し、取引先である建設業者等に販売することを業務内容としているため、原告会社の従業員には、被告に加入している者はいない。それにもかかわらず、総評全日本建設運輸連帯労働組合近畿地方本部執行委員長吉田伸、被告組合執行委員長武及び被告組合日本一生コン分会(以下「日本一分会」という。)分会長川本譽志和名で、原告会社、日本一生コンクリート株式会社(以下「日本一」という。)及び株式会社成進(以下「成進」という。)宛の平成元年六月一二日付け団体交渉申入書が届けられた。
右申入れの趣旨は、原告会社、日本一及び成進に対し、被告の組合員であるミキサー運転手の労働条件に関する団体交渉に応じるよう求めるものであるが、日本一は、原告会社が発注する生コンメーカーのひとつにすぎないし、成進は、日本一との間で生コンの運送契約を締結している会社で、原告会社との間には何らの法律関係もない。また、右ミキサー運転手は、成進との間で、ミキサー車持込みの商店主として、運送業務の委託契約を締結しているにすぎないのであるから、いかなる意味においても、原告会社が右ミキサー運転手の労働条件について交渉し得る立場にない。したがって、原告会社が団体交渉の相手方にならないことは明らかであるから、原告会社は、右申入れに応じなかった。
3 すると、被告は、次に述べるとおり、その組合員や第三者を原告会社の取引先へ押し掛けさせたり、文書を持参するなどして取引先を脅迫して原告会社との取引きの解除を迫り、また、原告会社が受注した生コンクリートの搬入先の工事現場に押し掛けさせて原告会社の生コンクリート納入を実力で阻止するなどし、もって、原告会社の営業を妨害している。
(一) 要請書の配布による妨害
(1) 平成元年七月一八日付け及び同月二二日付け要請書の配布
被告の組合員又は支援者は、そのころ、原告会社の取引先に右各要請書を持参したが、これらの要請書には、「尚、解決が長期に及ぶ場合は、会社への行動の組織化によって、貴殿に対しても御迷惑をおかけすることがあるかもしれないことを、予めお断り致します。」などの脅迫的言辞を用いて取引先に困惑を生じさせたり、「眞壁組グループ(日本一生コンクリート、国土一生コンクリート、五洋一生コンクリート)への生コンクリート発注をされる時は、諸法律遵守を求められるよう要請します。」などと記載して、原告会社との取引きを見合わせるよう圧力をかけた。
(2) 平成二年四月三日付け要請書の配布
被告の組合員又は支援者は、そのころ、右(1)と同様の方法で要請書を配布して、取引先に対し、原告会社と取引きをしないよう圧力をかけたが、その要請書には、「現在契約中の場合は、残契約分を解除されることを要請します。」との記載があった。
(3) 平成二年五月一日付け要請書の配布
被告の組合員又は支援者は、そのころ、右(1)と同様の方法で要請書を配布し、原告会社との取引きを継続している取引先に対し、圧力を加えた。
(二) 搬入阻止による妨害
(1) 平成二年四月二六日搬入分の阻止
被告の組合員又は支援者の合計百数十名は、同月二五日午後二時一〇分ころ、原告会社の大手得意先である熊谷組(仮称)シャルマン・フジ熊取新築工事作業現場に押しかけ、同作業所の石橋所長に面談を申し入れ、同月二六日の生コンクリート打設につき、原告会社から生コンの搬入を受けた場合には、被告において実力で阻止する旨を告げ、右石橋を脅迫した。
(2) 平成二年五月一四日搬入分の阻止
被告の組合員又は支援者の合計数名ないし数十名は、同日午前一〇時ころから午後一二時三〇分頃までの間、原告会社の大手得意先である村本建設株式会社(以下「村本建設」という。)の最上配送センター新築工事作業現場に押し掛け、実力でミキサー車による生コンクリート搬入を阻止した。
(三) その他の方法による妨害
(1) 山口建材生コンクリート株式会社(以下「山口建材」という。)に対する威迫
被告の組合員又は支援者の合計約一〇名は、平成二年四月二五日午後二時三〇分ころ、マイクロバスに乗って、原告会社の協力会社であり、発注先である山口建材に押し掛け、武洋一外一名が同社の社長に面会を強要したうえ、原告会社からの出荷依頼には一切応じないよう迫った。
(2) 矢倉ヒューム管工業株式会社(以下「矢倉ヒューム」という。)に対する威迫
被告の組合員約一〇名は、平成二年四月二七日、矢倉ヒュームに押し掛け、面談を強要し、同社の矢倉常務取締役に対して、原告会社に一切出荷しないよう迫った。
(3) 無言電話による妨害
被告の組合員又は支援者は、平成元年七月三一日から平成二年一二月までの間、原告会社に頻繁に無言電話をかけ、原告会社の社員に畏怖感を生じさせたばかりでなく、取引先からの架電を阻止した。
4 被告は、前記原告会社の営業活動の妨害にとどまらず、原告明、同和子及び同カルに対しても、次のような違法行為に及び、原告明の自宅に対する所有権の円満な行使を妨害し、名誉権(人格権)を侵害するとともに、原告明、同和子及び同カルの人格権に基づく平穏な家庭生活を営む権利を侵害した。
(一) 街宣活動
(1) 平成二年九月三日、「連帯」と記載された街頭宣伝車が原告明の自宅に押し掛け、スピーカーを使用して原告明を誹謗中傷する演説を開始したが、その音量は、窓を閉めきった原告明の自宅室内でも充分に聞こえるほどで、戸外においては、少なくとも半径二〇〇メートル以内まで達するものであった。その後、右街頭宣伝車は、日曜、祝日を除く毎日、原告明の自宅に押しかけ、午前中三回、午後一回程の割合で、一回につき一五分程度の演説を繰り返した。
(2) 原告カルは、老齢(明治四四年八月一九日生)であることに加え、高血圧症のため通院加療中であったが、右被告による度重なる生活妨害行為による心理的苦痛により、その症状が悪化したし、原告和子も、恐怖のため外出できない状態である。また、銀行等の取引先や出入りの業者、知人なども訪問できず、不便極まりない状態である。
さらに、原告明の自宅周辺は、閑静な住宅地であるが、被告の前記街頭宣伝活動に関して、近所から苦情が寄せられ、原告明、同和子及び同カルは、その対応に苦慮している。そして、原告明の自宅には、無言電話や「法律を守れ」、「連帯だ」などと告げる嫌がらせの電話が一日一〇〇回近くかかり、原告明、同和子及び同カルは、著しい精神的苦痛を被っている。
(二) 原告明に対する名誉毀損及び侮辱
(1) 被告による右演説の内容は「眞壁組社長眞壁明は法律を守れ」、「眞壁組社長眞壁明は組合潰しをやめろ」、「眞壁組社長眞壁明は誠意ある交渉をせよ」、「労働者を踏み台にして眞壁グループは方法手段を選ばず儲けのみを考えて不当労働行為を繰り返している」、「眞壁組社長眞壁明は警察権力をも使い警察と一体になって事件をでっちあげ、仲間を不当に逮捕勾留し、人権侵害を加えている」、「右翼暴力団、警察権力を使い、ありとあらゆる手段を使って組合潰しをはかっている」というもので、原告明の氏名と虚偽の事実を連呼するものである。被告は、原告明の自宅正面の道路に街頭宣伝車を駐車させ、あるいはその周囲を徘徊しながら、スピーカーを使用して、右のような演説を繰り返している。
(2) 被告の右演説は、虚偽の事実の摘示により原告明を極悪非道の輩と決めつけるもので、同原告を侮辱し、その名誉を著しく毀損するとともに、生活の本拠である自宅周辺で執拗に演説が繰り返され、同原告は、耐え難い苦痛を受けている。
5 原告らは、被告による右違法行為により、次の損害を被った。
(一) 原告会社の損害
(1) 被告による前記3記載の違法行為により、原告会社は、取引先との契約が中途で解除され、また、被告が幾度にもわたって、取引先に対し、前記要請書を配布したり、工事現場での紛争を発生させたため、原告会社に対する生コンの買受申込みが減少した。これを平成元年一月から一〇月までの期間と平成二年一月から一〇月までの期間について比較してみると、別表1及び2記載のとおり、売上総額で生コンが三億一四三〇万〇七二〇円、建設材料が二億四七三四万八八四九円減少し、その結果、粗利で生コンが二一七五万五二〇九円、建設材料が九三七七万六九四七円の合計一億一五五三万二一五六円が減少したのであるから、原告会社が被告の前記違法行為によって被った損害は、右減少した粗利の合計である一億一五五三万二一五六円を下らないというべきである。
さらに、原告会社は、本件訴訟の提起につき、原告ら代理人に合計六八八万三五〇〇円の報酬を支払うことを約し、同額の損害を被った。
(2) なお、被告は、平成二年一〇月一五日に原告会社の申立てによる請求の趣旨第1項と同旨の仮処分決定(当庁平成二年(ヨ)第一四九七号事件)がなされたにもかかわらず、これを潜脱するかのように、被告の事務所内に被告の組合員を構成員として設けられた「生コン製品の品質管理を監視する会」なる名称を用いて、同年一一月一六日、原告会社の取引先である株式会社矢野組工業(以下「矢野組」という。)の生コン搬入現場に押し掛け、原告会社の営業を妨害しているのである。
(二) 原告明、同和子及び同カルの損害
原告明、同和子及び同カルは、被告の前記4記載の違法行為により、著しい肉体的、精神的苦痛を受けたが、これを金銭に評価すれば、それぞれ一〇〇万円が相当である。
また、原告明、同和子及び同カルは、本件訴訟の提起につき、原告ら代理人に各一七万五五〇〇円の報酬を支払うことを約し、それぞれ同額の損害を被った。
6 よって、原告会社は、被告に対し、営業権ないしは不法行為に基づき、請求の趣旨第1項記載の各行為の差止め並びに不法行為に基づく損害金一億二二四一万五六五六円及びこれに対する不法行為の後である平成二年一二月一五日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、原告明は自宅の所有権、人格権、名誉権に基づき、原告和子及び同カルは人格権に基づき、それぞれ被告に対し請求の趣旨第2項記載の行為の差止め並びに不法行為に基づく損害金一一七万五五〇〇円及びこれに対する不法行為の後である同日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。ただし、原告会社は、後記のとおり、眞壁組グループの各社を通して、自ら実質的な主体として、生コンクリート製造業やその輸送業を行っている。
2 同2のうち、原告会社が、外形的には、他社が生産した生コンクリートを購入し、取引先である建設業者等に販売することを業務内容としていること(なお、その実態は前項で述べたとおりである。)、原告会社の従業員には被告に加入している者がいないこと、原告会社主張の団体交渉申入書が届けられたこと及び原告会社が右申入れに応じなかったことは認め、その余は争う。
3(一) 同3(一)(1)ないし(3)のうち、被告が原告会社の取引先に各要請書を配布したことは認め、その余は争う。
(二)(1) 同3(二)(1)のうち、被告が、平成二年四月二五日午後二時一〇分ころ、熊谷組(仮称)シャルマン・フジ熊取新築工事作業現場において、石橋所長に原告会社から生コンの搬入を受けないよう告げたことは認め、その余は否認する。被告は、右内容の要請を行ったにすぎない。
(2) 同3(二)(2)のうち、被告が、同年五月一四日午前一〇時ころから午後一二時三〇分頃までの間、村本建設の最上配送センター新築工事作業現場に赴き、原告会社から生コンの搬入を受けないよう告げたことは認め、その余は否認する。被告は、右内容の要請を行ったにすぎない。
(三)(1) 同3(三)(1)のうち、被告の役員二名が、同四(ママ)月二五日午後二時三〇分ころ、山口建材において、同社の社長に原告会社からの出荷依頼には応じないよう要請したことは認め、その余は否認する。
(2) 同3(三)(2)のうち、被告が、同年四月二七日、矢倉ヒュームにおいて、同社の矢倉常務取締役に対して、原告会社に一切出荷しないよう要請したことは認め、その余は否認する。
(3) 同3(三)(3)の事実は否認する。
4(一)(1) 同4(一)(1)のうち、「連帯」と記載された街頭宣伝車が街頭宣伝活動をしたことは認め、その余は不知。ただし、宣伝の内容はすべて事実であり、原告明などを誹謗したり、中傷するものではない。また、宣伝活動が行われたのは平成二年九月三日以降の日曜、祝日を除く毎日ではなく、一日の回数も多くて三回程度である。
(2) 同4(一)(2)のうち、被告が嫌がらせの電話をかけたことは否認し、その余は不知。
(二)(1) 同4(二)(1)のうち、被告が原告明主張の内容の演説を行ったことは認め、その余は争う。
(2) 同4(二)(2)は争う。右演説の内容は虚偽ではない。
5(一)(1) 同5(一)(1)の事実は否認する。
(2) 同5(一)(2)のうち、原告会社主張の仮処分決定がなされたこと及び「生コン製品の品質管理を監視する会」が株式会社矢野組工業の生コン搬入現場に赴いたことは認め、その余は争う。
(二) 同5(二)の事実は否認する。
三 被告の主張
被告の行為は、次に述べるとおり、原告会社が被告の組合員の使用者たる地位にあるにもかかわらず、団体交渉や労働委員会の斡旋を受けようとせず、不誠実な対応に終始していたため、それに抗議し、労使関係の円満な解決を図るための団体交渉や協議を行うよう働きかけることを目的に行われたものである。そして、その表現や態様も相当な範囲にとどまるものであったから、正当な争議行為というべきであり、違法性がないというべきである。
1 原告会社の使用者性
(一) 原告会社は、大阪府下に三つの生コンクリート製造プラントを所有しているが、自ら生コンクリートの製造は行わず、これらのプラントを日本一、国土一生コンクリート株式会社(以下「国土一」という。)及び五洋一生コンクリート工業株式会社(以下「五洋一」という。なお、日本一、国土一及び五洋一を合わせて「三社」という。)に貸与し、三社が原告会社から生コンクリートの原材料を購入して、生コンクリートを製造している。そして、三社が製造した生コンクリートの輸送は、成進、株式会社一興(以下「一興」という。)などが担当している。
(二) 被告の組合員と成進との関係(被告の組合員の労働者性)
(1) 原告らは、成進でミキサー車の運転手として稼働する被告の組合員との法律関係を業務委託契約関係であると主張している。しかし、次に述べるところから明らかなように、その関係は雇用契約に基づくものであり、被告の組合員は、成進に雇用された従業員である。
(2) 仕事の依頼や業務の従事についての諾否の自由の不存在
被告の組合員は、成進からの仕事の依頼、業務への従事の申入れに対しては、当然にこれに応じなければならず、諾否の自由はない。また、成進との間の契約が存続する間は、他の会社の業務に従事して成進の仕事をしないということもできず、被告の組合員にとって、成進から得る収入が唯一の生活の糧となっていた。
(3) 業務遂行における指揮監督と拘束
生コンクリートは、短時間で固まってしまう性質(固結性)を有し、連続的に打設する必要があるため、その輸送についても、他の運転手と適切な時間的間隔(ピッチ)を守ることが要求される。被告の組合員に対するピッチの指定は、成進が行っていたし、運送経路も、成進から明示又は黙示の指示を受けていた。さらに、被告の組合員は、成進の担当者から現場での挨拶の励行を命じられたり、成進の社名の入った制服の着用が義務づけられていた。
(4) 勤務時間、勤務場所の拘束
被告の組合員は、日本一の三六五日二四時間体制の営業に対応する成進の輸送を確保するため、夜間、休日も拘束されているし、運送業務がない日にも出勤を命ぜられることがある。また、被告の組合員は、日本一及び国土一の出荷時間に合わせて、成進から毎日の出勤時間が指定され、その厳守を求められており、日本一及び国土一に被告の分会が結成されるまではタイムカードの打刻による出退勤管理が行われていた。さらに、被告の組合員は、手持(ママ)ち時間中も、休憩室等における待機を強いられていた。
(5) 報酬の賃金たる性格
被告の組合員は、平等化された報酬の支払いを受けていたし、五洋一の争議のため仕事がなかったときにも報酬の保障を受けていた。このことを考えると、被告の組合員に支給されていた金員が個々の運送の対価ではなく、雇用関係に基づく賃金であることは明らかである。確かに、報酬を受け取るに当たって、被告の組合員は、成進に請求書を提出していたし、また、支給された報酬に消費税が加えられていたが、前者は単なる形式上のことで、請求書の提出がなくても賃金が支払われていたし、後者については、分会結成の後に急遽行われた仮装にすぎない。
(6) 業務器具の負担関係
被告の組合員が使用するミキサー車は、被告の組合員の個人所有とされているが、このような所有形態も成進によって一方的に決められたものである。そして、ミキサー車の代金は成進の手形で決済されており、その完済前に被告の組合員が成進を辞めれば、ミキサー車は成進が引き取るものとされていた。このように、ミキサー車の所有関係をもって、被告の組合員と成進との雇用関係を否定することができないばかりでなく、これらのミキサー車は、分会が結成されるまで、日本一構内の駐車場に保管されていた。また、各ミキサー車に設置された無線機は、日本一が無償で取り付けたものであるし、安全帽、ヘルメット、合羽、防寒着、作業服等は成進から支給されている。
(7) 二台持ちについて
被告の組合員の中には、成進での輸送業務に関して、二台のミキサー車を使用し、二台分の賃金を受け取っている者もいるが、このことから、成進と運転手との間の雇用関係が否定されるものではない。すなわち、このような形態は、成進の勧めによって生じた上、二台目の車に誰を乗せるかについては成進の承諾を要するなど、成進の指揮監督関係は維持されているのである。
(三) 被告の組合員と日本一との関係
(1) 前記のとおり、被告の組合員との雇用契約の直接の相手方は成進であるが、労組法七条の「使用者」には、日本一も含むというべきである。すなわち、同条の規定する「使用者」には、直接の契約当事者だけではなく、被用者の人事その他の労働条件等労働関係上の諸利益に対し、契約上の使用者と同様の支配力を現実かつ具体的に有する者を含むというべきところ、次に述べるように、日本一も、輸送を担当する被告の組合員(以下「日本一分会員」という。)との関係において、成進と同様の支配力を現実かつ具体的に有しているからである。
(2) 生コンクリート事業の特殊性
生コンクリート産業における輸送は、製造開始後九〇分以内に現場に届けなければならず、また、長期間の保存ができないこと、品質保持の責任が製造者側に負わされていることなど、その輸送自体が半製品を完成品化する製造工程の一環をなすとの意義を有している。それゆえ、生コンクリート製造会社にとって、輸送部門を別会社に行わせる場合には、輸送の迅速、安全、確実を期するため、輸送会社に対する強い指導力、影響力を確保する必要から、一工場一輸送会社の体制を採用して容易に管理ができるようにしたり、ミキサー車の運転手の労働時間、労働内容にまで直接の決定力を持つのが通常である。
このような特殊性を考慮すると、生コンクリート製造会社が生コンクリート輸送会社の従業員の使用者的地位にあるといえるためには、製造会社が輸送会社の営業に対する支配の有無、出荷指示等業務遂行上の結合関係の有無、生コンクリート運送会社が製造会社の物的設備をどの程度使用しているか、賃金決定権の所在などを基準として、実質的に判断すべきである。そして、以下に述べるように、日本一と成進との間では、この関係が肯定されるから、日本一が被告の組合員の使用者たる地位にあることは明らかである。
(3) 日本一及び成進の設立に至る経緯
日本一は昭和六〇年九月に、成進は同年一一月に設立されたが、両社は同年一〇月一日、同時に稼働を開始した。日本一は、原告会社の全面的な援助を受けて設立されたが、成進は、日本一の製造した生コンクリートを輸送する目的で設立されたもので、当初から日本一とその運命を共にするものであった。
(4) 日本一の成進に対する営業支配
日本一の製造した生コンクリートは、出荷量が特に多い場合を除いて、そのすべての輸送を成進が行っており、成進は、日本一との関係においては、いわゆる荷主限定の関係にある。
(5) 業務遂行上の結合関係
成進における生コンクリート輸送業務の遂行は、一日の作業終了後、日本一の工場長が成進の配車係に対し、現場名、立方メートル数(生コンクリートの量)、着時刻等が記載された翌日の出荷予定表を交付し、右配車係が日本一の伝票に必要事項を記載して翌朝運転手に交付する。運転手は、現場に到着後日本一の従業員の誘導で生コンクリートを打設し、打設完了後は前記伝票にサインをもらって、帰社し、この伝票を返却する。日本一は、右返却を受けた伝票に基づいて出荷実績表を作成するのであるが、このように、業務遂行上、成進と日本一とは、密接な連携関係にあり、この関係を支配しているのは日本一である。
(6) 施設利用関係
成進は、四〇台を超えるミキサー車を使用して生コンクリートの輸送業務を行っているが、その配車スペース、駐車スペース、運転手の休憩室や業務連絡用の無線設備等すべての物的設備を日本一から借用していながら、使用料は一切支払っていない。施設利用の面においても、成進の日本一に対する従属性は明らかである。
(7) 賃金の決定
被告の分会員は、成進から、輸送した生コンクリートの立方メートル数に応じた賃金を受領しているが、その基盤となる運賃単価等の決定権は日本一にあり、成進がこれを決定することはあり得ない。成進は、支払いを受けた運送料の総額から一定の管理料を取得するにすぎない。
(四) 被告の組合員と国土一との関係
被告の組合員の中には国土一が製造した生コンクリートの輸送を担当する者(国土一生コン分会員、以下「国土一分会員」という。)もいるが、国土一分会員と国土一との関係も、右日本一分会員と日本一との関係で述べたところと同様であり、国土一が国土一分会員の使用者としての地位にあることは明らかである。
(五) 被告の組合員と原告会社との関係
(1) 原告会社は、昭和四四年に設立され、建築資材の総合商社を自称し、骨材業者としては、比較的大手の企業であったが、コンクリート製法が変化してきたことなどから、骨材の販売だけでは経営が成り立たなくなり、昭和五八年ころから、生コンクリートの販売を開始した。原告会社は、当初は自社プラントを有しなかったことから、他のメーカーで製造された生コンクリートを購入し、これを転売していた。しかしながら、このような方法では、利益に限界があり、また、大阪泉南地域における新空港関連の事業により大幅な生コンクリート需要の増加が見込まれたため、自ら生コンクリートの製造を企図した。
(2) 原告会社は、昭和六〇年から六一年にかけて、生コンクリート製造プラントを建設したが、労働法上の様々な責任を免れようとして、原告会社の生コンクリート製造販売部門に独立の法人格を与えて三社を設立するとともに、同様の趣旨で、輸送部門として成進を設けた。そして、原告明の友人である吉川六郎(以下「吉川」という。)を日本一の代表者にすえ、日本一に原告会社所有の生コンクリート製造プラントを貸与するという形態を採った。原告会社は、それに続いて、いずれも原告明の娘婿である眞壁重雄(以下「重雄」という。)が代表者を務める国土一及び五洋一に生コン製造を行わせているが、五洋一についても、無償で原告会社のプラントを貸与している。
(3) 原告会社は、傘下に三社、成進等を擁し、いわゆる眞壁組グループを形成している。原告会社は、眞壁組グループの中心的存在であり、建築基礎材料のトータルプランナーを自称し、完璧なリレーション、仕入れから営業、配送までの一貫体制を謳い文句に、一日三〇〇〇立方メートルの生コンクリートの供給能力を有することを販売商品項目に上げている。しかし、原告会社自体は生コンクリート製造プラントや輸送車両を保有しておらず、生コンクリートの製造、販売はすべて三社や成進などに行わせている。このよう実態からみれば、三社は原告会社の生コンクリート製造部門にすぎず、成進等は、原告会社の生コンクリート輸送部門にすぎない。
(4) 右に述べた眞壁組グループの一体的関係は、日本一は成進に対し、成進は原告会社に対し、それぞれ将来継続して日本一が製造する生コンクリートを販売すること、日本一は約定期間に生コンクリートを製造し、成進はこれを工場から引き取って原告会社の指定場所に荷卸しすること、原告会社は売買代金のうちから日本一の工場渡し代金を差し引いた残額を成進に支払い、成進より差引した残額を日本一に支払うことを内容とする商取引契約書が取り交わされ、あるいは取り交わされようとしたことからも明らかである。
(5) さらに、平成元年六月一〇日までの原告会社の役員構成は、代表取締役が原告明であり、他の取締役には、重雄、原告和子、同カル及び林俊秀(以下「林」という。)が就任し、監査役が中西規子及び四宮弘章(以下「四宮」という。)であり、吉川も同年五月末日まで、原告会社の取締役に就任していた。同年六月一〇日までの三社の役員も、日本一については、代表取締役が吉川、取締役が原告和子、四宮、重雄、監査役が眞壁左知子(以下「左知子」という。)であり、国土一については、代表取締役が重雄、取締役が林、松下幸司(以下「松下」という。)、塩崎將尚(以下「塩崎」という。)、上瀧葵(以下「上瀧」という。)、監査役が四宮であった。また、五洋一については、代表取締役が重雄、取締役が左知子、島之上雅行であり、監査役が原告カルであったが、これらの者は、いずれも原告明の親族、親しい友人やその家族であった。そして、原告会社や三社の役員の中には、同年六月一〇日に役員を辞任した者が多数いるが、その時期は、被告の日本一分会が結成されたのと同じ時期である。その後就任した役員も、原告明の親族や友人関係の者であり、原告会社や三社の経営の実態に変化はない。
なお、同日の時点での成進の代表取締役は、成進については、代表取締役が吉川の友人の辻畑秋成(以下「辻畑」という。)の妻の辻畑勝子、取締役がいずれも辻畑の親戚やその知人である土井正美、吉田敬次郎及び小路山義孝であり、監査役が辻畑であった。
株主の構成をみても、原告会社の株主は、原告明、同和子、同カル、林、四宮、奥野庸夫、奥野重子が保有し、日本一の株式は吉川、吉川禎子、松下、山神庸宏、中西彰(以下「彰」という。)、中西令(以下「令」という。)が保有している。そして、国土一の株主は、重雄、左知子、眞壁宏寧、彰、令、塩崎及び上瀧である。さらに、三社の工場長等の幹部従業員も、原告会社や三社の間を相互に移籍したり、ある会社に在籍し、給料の支給を受けながら別の会社の業務を行ったりしているが、移籍した場合においても、社会保険が従前のままに放置されていたこともある。
このように、役員や株主の構成、従業員の交流などの点からみても、原告会社と三社の一体化は顕著である。
(6) 原告会社は、自らが発行したパンフレットの中で、三社を原告会社の子会社と称し、日本一も、原告会社を販売代理店として、形式的な取引関係を結んでいる。しかし、その内容は、原告会社に対し、建設会社等の取引先から生コンクリートの注文があった場合、原告会社は大龍セメントにセメントを注文し、これに骨材を付加して三社に売り渡し、三社は、これらの材料で生コンクリートを製造し、原告会社を介して建設会社等に売り渡すというものである。ただし、セメントや骨材は、生コンクリート製造プラントと同一の敷地内にあるサイロ等に備蓄されており、原告会社から三社に対しては、三社が実際に使用した骨材等の分量に応じて代金が請求され、また、各プラントの電気や水道の供給契約も、原告会社の名義で締結されているため、生コンクリート製造に要した電気や水道の料金も、三社から原告会社に支払われている。さらに、原告会社から三社に支払われる代金も、原告会社が建設会社等との間で取り決めた単価を基準に、その中から一定の金額を手数料として控除した金額とされている。
また、三社には、生コンクリート製造に不可欠の製造部門と試験部門があるだけで、営業部門はなく、原告会社の営業担当者が建設会社等から受けた注文を三社に割り振って、生コンクリートを製造、輸送させるのである。すなわち、原告会社から三社に対して、得意先名、施工先名、工事現場名、品名(生コンクリートの配合割合)を記載した単価取決連絡表及び納入先の工事現場付近の見取図が送付され、納入先、納入時間については電話で通知される。三社は、その指示に基づいて生コンクリートを製造する。生コンクリートは、製造から納入までの時間に制約があるため、原告会社は、プラントと現場との距離やプラントの稼働状況を勘案して、三社に仕事を割り振っている。そして、日本一及び国土一は、生コンクリートの製造販売以外の業務は行っていないが、その注文はすべて原告会社から受けている。三社はセメント及び骨材のすべてを原告会社から購入しているのであるが、その価格も、市場価格とは無関係に、眞壁組グループの利益調整の観点から決められている上、原告会社と三社等グループ各社との間では、法人格の形式的独立性や長期にわたる緊密な取引関係の継続にもかかわらず、相互の権利、義務を明文化した契約書は存在しないのである。
(7) 前記の特殊性から、生コンクリート産業においては、製造、販売、輸送の緊密性、一体性が強く要求されるが、三社は、生コンクリートの製造設備も保有していないばかりでなく、独自の営業部門も輸送部門もなく、営業活動は原告会社に依存し、三社が製造する生コンクリートのすべては被告の組合員ら運転手によって輸送されている。このことからも明らかなように、眞壁組グループは、一体として一つの企業活動の主体を構成するものであり、その頂点に立つのが原告会社なのである。さらに、原告会社のダンプカー、三社の生コンクリート製造プラント、成進等の輸送会社のミキサー車は、すべて同一の緑色で塗装されているが、これは、眞壁組グループの企業としての一体性を誇示し、これが一見して明らかになるよう、会社のカラーを採用したのである。また、従前の商号を変更して五洋一の名称としたことも、三社の関連性、一体性を示しているのである。
(8) 成進は、日本一の設立に際し、吉川が知人の辻畑に依頼し、日本一が製造した生コンクリートを輸送するために設立した会社である。国土一設立後は、その製造にかかる生コンクリートの輸送も担当しているが、それぞれの輸送を担当する運転手は原則として固定されており、それぞれの運転手が乗務するミキサー車に設置された無線機も、その担当に応じて、日本一又は国土一に繋げられている。しかし、成進に対する輸送代金の支払いは日本一や国土一からではなく、すべて原告会社から直接支払われている。そして、この輸送代金は、運送量に基づいて計算されたものではなく、最低保障が定められている。しかも、原告会社の日本一に対する請求が日本一から原告会社に対する請求を上回る場合でも、原告会社から成進に対する支払いは行われているのであるし、これだけの緊密な関係をもっているにもかかわらず、成進と日本一、国土一あるいは原告会社との間には、成文の契約書は存しないのである。
(9) 被告の組合員の主な業務の内容は、原告会社が販売する生コンクリートを、原告会社が日本一及び国土一に対して行う指示に基づいて日本一及び国土一が作成した出荷計画表に基づいて輸送することである。そして、被告の組合員が取得する賃金は、その最低保障部分については、成進と日本一、国土一及び原告会社との合意によって決せられているし、歩合部分については、原告会社が建設会社等から支払いを受けた代金が日本一、国土一及び成進を経て、被告の組合員に支払われるが、その過程において、各社がそれぞれの経費や利益を控除するものであることを考えると、原告会社の建設会社等への売買代金の決め方によって左右されるといえるし、実際には、成進が被告の組合員に支払う賃金に成進の取得すべき手数料を加えた額が原告会社から成進に支払われている。
(10) 原告会社の実質的使用者性
以上述べたように、原告会社と三社、成進等眞壁組グループに属する会社との間には、人的構成、物的設備、資産の共有、経理の混同、経済的一体性があることは明らかである。三社や成進は、形式的には原告会社と別個の会社とされているものの、実質的、経済的には、三社は原告会社の生コンクリート製造部門であり、成進はその輸送部門である。すなわち、原告会社と三社及び成進との関係は、本来単一の企業体であるべきものを、原告明らの相続対策や組合対策などのために、敢えて、法形式上、分化したものにすぎない。
前述の生コン産業の特殊性に鑑みれば、製造部門である日本一及び輸送部門である成進と原告会社とは、緊密な一体的関係にあるが、その中でも、製造、輸送現場の労働条件に強い指導力や影響力を確保しなければならないのは、対外的責任を負う原告会社であって、実際にも、原告会社は、そのような力を行使してきた。本件紛争を解決するために、原告明が被告組合の代表者武とのトップ交渉に臨み、いったんは紛争が収拾の方向に向かったのはそのような事情を物語るのである。
このように、原告会社は、実質的にみれば、人的、物的関係を通して、眞壁組グループを統括し、三社や成進等を支配下におき、被告の組合員の労働条件等労働契約上の諸利益につき、雇い主と同様の支配力を現実かつ具体的に有していることは明らかである。したがって、原告会社は、被告の組合員との関係においては、日本一、国土一及び成進と並んで労組法七条の使用者に該当するというべきである。
(11) 法人格の否認、濫用
原告会社は、競争の激しい生コン業界へ新規参入するに当たって、労働法規上の責任の回避や人件費節減の意図のもとに、三社がミキサー車の運転手を直接雇用する形態をとらずに、成進等の別会社を介在させた。しかも、成進等と運転手との間に業務遂行契約なる名称の契約を締結させることによって、巧妙に法形式を整え、自らが運転手の使用者ではないとして、被告の団体交渉の要求を頑なに拒否しているのである。労働者の犠牲のもとに当時過当競争の状態にあった生コン業界への新規参入を図ろうとした原告会社の企業戦略において、最も不利益を被るのは、末端の輸送部門に携わる労働者である。ミキサー車の運転手らは、成進との間の雇用関係自体に不安をもっていたこともあって、被告の日本一分会、国土一分会が結成され、運転手らがこれに加入したのである。そして、被告が原告会社、日本一、国土一及び成進に対して、団体交渉を申し入れたにもかかわらず、辻畑は、右翼団体を利用して脅したりし、原告会社も団体交渉を拒否し、誠実に対応しなかった。そこで、武は、第三者の仲介を得て、原告明との間で話し合いをした結果、運賃単価の引上げなどを内容とする合意が成立した。しかし、原告会社は、この合意に反して、逆に運賃額を引き下げたり、分会員の雇用不安を煽るなどしたため、武は、原告明に対して、再度の交渉を求めたが、原告明は、これに応じなかった。また、原告会社の代表者である原告明は、本件における尋問において、「組合の団交に応じる気はない、それはたとえ、地労委、裁判所で団交応諾命令が出され、あるいは、眞壁組の使用者性が認められても、また、それが確定しても変わるところはない。これは信念だ。」などと供述していることからも明らかなように、労働組合嫌悪の情、労働法無視の意識が顕著であり、三社や成進を敢えて別会社として独立させたのは、原告明のこのような労働組合嫌悪の情に基づいているのである。
右に述べたとおり、原告会社及び日本一、国土一、成進等は、組織的、経済的に単一体を構成しており、支配法人たる原告会社の従属法人たる日本一、国土一及び成進に対する管理支配は現実的、統一的で、社会的にも企業活動に同一性があるというべきである。そして、日本一、国土一及び成進の法人格は全くの形骸にすぎないとして否認されるべきであるし、また、三社や成進は、原告会社が労働組合対策などのために形式上原告会社から分離し、独立させて別会社としたにすぎず、法人格の濫用である。
(12) 右のような経緯で、被告は、原告会社や日本一、国土一に対して、抗議行動を行い、本件紛争に至ったのである。原告会社は、被告に対して不法行為責任を追及するが、原告会社は被告の分会員の使用者たる地位を有していることから、原告会社を相手に団体交渉の応諾等を求めたこと自体は当然のことであるし、また、その態様も、前記のとおり、法的に許容された範囲内にとどまっているというべきであるから、被告が不法行為責任を負ういわれはない。
四 原告らの反論
1 被告の主張は争う。
2 原告会社と被告の組合員との間には、業務遂行に当たって、直接的な指揮、命令関係はない。
原告会社は、建設会社等との間で成立した契約に基づき、三社に生コンクリートを注文しているにすぎず、生コンクリート販売に関しての立場は、純然たる商社である。そして、被告の組合員に配車を指示するのは、成進の従業員(配車係)の土井正美(以下「土井」という。)であり、日本一や国土一がこれを指示することはできない。ましてや、原告会社が被告の組合員個人に対し、生コンクリートの輸送先を指示することはあり得ない。
3 原告会社と被告の組合員との間には、賃金の支払関係はない。
原告会社は、三社に対し、発注した生コンクリートの代金を支払っている。確かに、日本一との取引きに関しては、毎月二五日に成進の口座に日本一指定の代金を振り込んでいるが、そのような扱いがされるに至った経緯は、成進が運転手に支払う報酬の支払日が毎月二五日とされていたのに対し、日本一から成進に対する代金の支払いが毎月二八日であったため、成進の運転手に対する支払いに不都合が生じることとなった。そこで、日本一に毎月二五日に代金を支払っていた原告会社が、日本一の承諾を得て、成進への便宜を図るため、日本一の指定する口座に、指定の代金を振り込んでいたにすぎず、それが成進名義の口座であった。
4 被告は、眞壁組グループを強調し、原告会社、三社や成進のグループとしての一体性を主張する。しかしながら、原告会社が眞壁組グループを称したのは、宣伝用のパンフレット上のことであり、右パンフレットは、単なる商取引上の宣伝文書で、誇張を含むものであるから、これを根拠に、原告会社、三社や成進の一体性を認めることはできないというべきである。
5 以上のとおり、原告会社は、三社や成進との間に資金、資本の繋がりはなく、人的な交流や介入もない。さらに、成進の運転手である被告の組合員との間にも直接の指揮、監督関係がないのであるから、原告会社が成進の運転手との関係において、使用者の立場にあるということはできない。
第三証拠
本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これをを引用する。
理由
第一当事者
請求原因1は、当事者間に争いがない。
第二原告らに対する権利侵害行為の成否
一 原告会社の関係
1 原告会社は、被告が原告会社の取引先に要請書を配布して取引先を威迫し、原告会社の営業権を侵害した旨主張するので検討する。
(一) 被告が平成元年七月一八日付け、同月二二日付け、平成二年四月三日付け、同年五月一日付けの各要請書を原告会社の取引先に配布したことは、当事者間に争いがない。
(二) 原告会社は、これらの要請書が被告の組合員ら多数が取引先に押し掛けるという態様で配布され、また、右各要請書には脅迫的言辞が用いられ、取引先を困惑させ、原告会社との取引きをやめるよう圧力をかけ、もって、原告会社の営業を妨害した旨主張する。
しかしながら、原告らの代理人が原告会社の取引先の鹿島建設株式会社(以下「鹿島建設」という。)大阪支店及び株式会社熊谷組(以下「熊谷組」という。)大阪支店南大阪出張所において聴取した内容を記載した報告書(<証拠略>)によると、鹿島建設大阪支店には、平成元年七月一八日付け要請書は同月二四日に、平成二年四月三日付け要請書は同月四日に、それぞれ被告の役員らが持参したこと、熊谷組大阪支店南大阪出張所では、同月三日付け要請書は現場に届けられたものが、作業所からファックスで送られてきたことが認められるが、その際被告の組合員らが多数で押し掛けたり、威圧的な言辞を用いたなどの事実は認められず、他に右主張の事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
(三) そこで、右各要請書が原告会社の営業権を妨害する行為といえるか否かであるが、平成元年七月一八日付け要請書(<証拠略>)及び同月二二日付け要請書(<証拠略>)には、被告の結成や被告と原告会社、日本一及び国土一との紛争の経緯が記載され、紛争の早期解決を図るための要請事項として、
「一、労働組合を認め、問題の早期解決を図るよう、会社に対し適切な影響力行使を要請します。
尚、解決が長期に及ぶ場合は、会社への行動の組織化によって、貴殿に対しても御迷惑をおかけすることがあるかもしれないことを、予めお断り致します。
一、眞壁組グループ(日本一コンクリート、国土一コンクリート、五洋一コンクリート)への生コンクリート発注をされる時は、諸法律遵守を求められるよう要請します。
一、以上の内容を御理解の上、関係者へ周知徹底されるよう要請します。」
との記載がある。
また、平成二年四月三日付け要請書(<証拠略>)及び同年五月一日付け要請書(<証拠略>)には、右平成元年七月一八日付け及び同月二二日付け要請書記載の要請事項に付加して、
「尚、現在契約中の場合には、残契約分を解除されることを要請します。」との記載がある。
(四) 右の記載だけを見れば、右各要請書は、被告が原告会社や日本一、国土一との間の紛争を解決するについて、原告会社の取引先に協力を求める文書とみる余地がないではない。しかしながら、証拠(<証拠・人証略>)によると、昭和六二年以降、被告は、京都市所在の灰孝小野田レミコン株式会社及び松原生コン株式会社、洛北レミコン株式会社との間で、被告を債務者とする生コンクリートの搬入や搬出妨害の差止めを命じた仮処分決定やこれに違反した場合に金員の支払いを命ずる間接強制の決定がされていること、昭和四八年に、同じく関西小野田レミコン神戸工場内で争議に関し、刑事事件に発展した紛争が生じたことが認められ、これらの事件がいずれも関西地区で発生していることから、関連事業を営む原告会社の取引先もこのことを知悉していたことは容易に推測できる。そして、固結性を有するという生コンクリートの特殊性から、搬入が予定どおり行われないと、工事に重大な支障を来し、工期が遅れることによって施主との間に紛争が生じるであろうことから、原告会社の取引先が前記要請書を見て、困惑し、原告会社との取引きを躊躇、断念する可能性は充分にあったというべきであるし(<証拠略>)、被告もまた、そのことを認識しながら、右各要請書の配布に及んだと解するのが相当である。
(五) そうすると、右各要請書は、言外に原告会社の取引先への生コンクリートの搬入や搬出の阻止をほのめかしながら、原告会社の取引先に原告会社との取引きの停止や解除を求めるものと認めざるを得ない。
(六) これに対し、被告は、右各要請書の記載は単なる協力の要請にすぎない旨主張し、(証拠略)には、前記「尚、解決が長期に及ぶ場合は、会社への行動の組織化によって、貴殿に対しても御迷惑をおかけすることがあるかもしれないことを、予めお断り致します。」との文章は、「現場がストライキに突入した場合は、納入期間が遅れますので、そのことが若干迷惑がかかるという趣旨」である旨の記載部分がある。しかしながら、前記のとおり、右各記載は、単なるストライキによる影響の単なる警告にとどまるとは認め難いのであるから、右の記載部分は措信できず、被告の右主張は採用できない。
(七) よって、被告が原告会社の取引先に前記各要請書を交付した行為は、原告会社の営業権の侵害行為というべきである。
2 搬入阻止による妨害
(一) 平成二年四月二六日の搬入分の阻止について
(1) 証拠(<証拠略>)によれば、平成二年四月二五日午後二時一〇分ころ、被告の組合員約一五〇名が、大阪府泉佐野市の熊谷組の作業所(シャルマン・フジ熊取)に押し掛け、石橋所長に対し、同月二六日に原告会社から生コンクリートが納入されるはずだが、ミキサー社(ママ)が来てもピケを張り納入させない旨を申し入れたこと、右作業所に警察官が駆けつけ、石橋所長が事情聴取を受けたこと及び連絡を受けた原告会社が代行プラントの依頼をしたため、当日の出荷が行われたことが認められる。
(2) 右証拠だけでは、被告の組合員による具体的行為の態様は必ずしも明らかでないが、少なくとも、被告の組合員の行動により、石橋所長が警察で事情聴取を受けたり、代行プラントによる生コンクリートの納入が行われるなど当初の業務遂行とは異なる混乱状況が生じたものということはできる。
(3) これに対し、被告は、被告の組合員が右作業所に赴いたことは認めながら、この行為は、右熊谷組に対する要請行為にすぎない旨主張し、(証拠略)(被告の組合員下堂園の本人調書)にもこれに沿う記載がある。しかしながら、右判示のとおり、右作業所での被告の組合員の行為は、単なる要請行為とは認められないから、右記載部分は措信できず、被告の右主張は採用しない。
(二) 同年五月一四日の搬入分の阻止について
(1) 証拠(<証拠・人証略>)によると、村本建設の工事現場(忠岡町)において、平成二年五月一四日午前八時三〇分ころからコンクリートの打設が行われていたこと、被告の組合員六、七名が同日午前一〇時前ころ、宣伝車に乗って右現場に現れ、使用している生コンクリートが日本一のものであることを確認した後、工事を続行するかどうか尋ねたこと、現場責任者の中筋正浩(以下「中筋」という。)が続行する旨答えたところ、被告の組合員は、そちらがその気ならうちもそういう考えでいくなどと告げたこと、その後宣伝車や大型バスに乗った被告の組合員数十名が右現場にやって来て、現場の周囲を取り囲み、現場からの出入りができなくなったこと、中筋は、同日一〇時三〇分ころ、機動隊の導入を要請するとともに、原告会社に連絡して、他のプラントからの生コンクリートの調達を指示したこと及び山口建材からの生コンクリートの納入を受けることになったため、被告の組合員は、最初からそうしておけばこんなことをしなくてすんだのになどと言いながら現場から引き上げたことが認められる。
(2) 被告は、日本一からの生コンクリートの納入を受けないよう要請するために、被告の組合員が右現場に赴いた旨主張するが、右認定の事実によれば、被告の行為が平和的な要請行為であったとは到底いうことができず、原告会社の営業権を侵害することは明らかであるから、被告の右主張は採用しない。
3 生コンクリートの出荷拒絶の圧力
(一) 原告会社は、その他の営業妨害行為として、平成二年四月二五日の山口建材への出荷拒絶要求及び同月二七日の矢倉ヒュームへの出荷拒絶要求を主張する。
しかし、右事実を立証する証拠として提出する原告会社の上田明作成の報告書(<証拠略>)は、その内容が概括的かつ抽象的であって、右各出荷拒絶要求行為の具体的内容が明らかでない。さらに、同報告書には、右要求のあった同月二五日以後原告会社に対する山口建材からの外註(ママ)協力が得られなくなった旨記載されているが、この記載部分は、前記認定の同年五月一四日に原告会社が村本建設の指示により納入する生コンクリートのプラントを日本一から山口建材に変更したとの事実に矛盾するから、右報告書は、容易に措信できないし、ほかにこれらの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
(二) よって、原告会社の右営業妨害行為があったとの主張は認めることができない。
4 無言電話
(一) 原告会社は、被告が平成元年七月三一日から平成二年一二月までの間に一日数百件の無言電話をかけて、原告会社の営業を妨害した旨を主張する。
(二) 確かに、証拠(<証拠・人証略>)によると、原告会社に多数回にわたる無言電話がかかってきたこと、大津市にある灰孝小野田レミコン株式会社から原告会社や日本一に対して極く短時間の電話が頻繁にかけられていたことが認められるものの、原告会社主張の期間全体にわたって無言電話がかけられていたことを認めるに足りる証拠はない。また、右無言電話が被告の組合員によってかけられていたと断定するに足りる証拠がないことを考えると、原告会社の右主張は採用することができない。
二 原告明、同和子及び同カルの関係
原告明、同和子及び同カルは、被告による人格権、名誉権の侵害を主張するので、その当否について判断する。
1 原告明、同和子及び同カルが住所地に所在する原告明の自宅に居住して生活していること、平成二年九月三日以降「連帯」と記載された街頭宣伝車が原告明の自宅付近で原告ら主張の内容の演説をしていることは当事者間に争いがなく(ただし、その頻度や一日の演説の回数を除く。)、証拠(<証拠・人証略>)によると、原告明の居宅は、付近に小学校などがある住宅地に所在していること、右演説が行われたのは、同月三日から二二日までは日曜、祝日を除いたほぼ毎日で、一日四回程度であり、同年一〇月一三日から二六日までは合計八日で、一日につき一回から四回程度であること、その音量は、街頭宣伝車から一〇メートル程離れ、窓を閉め切った原告明の自宅内でも充分に聞き取れる位だったこと、原告明が平成二年一〇月、演説が名誉を棄(ママ)損することなどを理由に、この演説を行った被告の組合員大川こと余永花を名誉棄(ママ)損罪で告訴したこと及び同年一一月一四日、原告らの申請に基づき、被告を債務者とする請求の趣旨2項同旨の仮処分決定(当庁平成二年(ヨ)第二六一三号事件)が発せられたことが認められる。
2 右認定の事実によると、被告の行った演説は、相当大きな音量で行われたということができ、原告明の自宅が住宅地にあることや演説が多数回にわたって、繰り返し行われたことなどの事情を考えると、被告の行った右演説は、原告明、同和子及び同カルの平穏な日常生活を困(ママ)乱させる違法な行為と認めるのが相当である(なお、原告明は、右演説が同原告の自宅に対する所有権の円満な行使を妨げたとして、右自宅に対する所有権の侵害をも主張するが、前記のとおり、右行為は、原告明の生活自体を妨害するものとして、生活権侵害と構成するのが相当である。)。
3 また、前掲各証拠によると、右演説の内容は、「眞壁組社長眞壁明は法律を守れ」、「眞壁組社長眞壁明は組合潰しをやめろ」、「眞壁組社長眞壁明は誠意ある交渉をせよ」、「労働者を踏み台にして眞壁グループは方法手段を選ばず儲けのみを考えて不当労働行為を繰り返している」、「眞壁組社長眞壁明は警察権力をも使い警察と一体になって事件をでっちあげ、仲間を不当に逮捕勾留し、人権侵害を加えている」、「右翼暴力団、警察権力を使い、ありとあらゆる手段を使って組合潰しをはかっている」というもの(この事実は、当事者間に争いがない。)で、原告明が著しい違法行為を行っている人物であるかのような印象を与え、同原告を侮辱するものである。さらに、原告明が、「眞壁組社長眞壁明は警察権力をも使い警察と一体となって事件をでっちあげ、仲間を不当に逮捕勾留し、人権侵害を加えている」、「右翼暴力団、警察権力を使い、ありとあらゆる手段を使って組合潰しをはかっている」などの具体的事実を摘示していることにかんがみれば、右演説は、同原告の名誉を毀損するものであったと認めるのが相当である。
4 なお、原告明、同和子及び同カルは、他にも被告による嫌がらせの電話があったことを主張するが、右の事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
三 以上のとおり、被告による前記要請書の配布、生コンクリートの搬入阻止は、原告会社に対する営業権の侵害行為であり、街頭宣伝活動は、原告明、同和子及び同カルに対する生活権の妨害、原告明に対する名誉権の侵害に該当する違法な行為ということができる。
第三被告の行為の違法性阻却事由の有無
被告は、右各行為が争議行為として適法である旨を主張するので、以下右主張について検討する。
一 原告会社の使用者性
1 前記当事者間に争いのない事実に、証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。
(一) 原告会社と三社との関係
(1) 原告会社は、骨材の採取、販売業を営んでいたが、昭和五八年ころから、他社の製造した生コンクリートを購入し、転売するようになった。原告会社は、さらに、関西新空港の建設などのために、大阪地区の生コンクリートの需要の増加が見込まれたことから、生コンクリート業界への本格的参入を図り、昭和六〇年二月、生コンクリートの製造、販売を会社の目的に加え、自ら生コン製造プラントの建設を計画した。
(2) 原告明は、原告会社の右計画に関し、旧来の友人であり、日本英油株式会社及び吉川物産貿易株式会社を経営し、また、平成元年五月末日まで原告会社の取締役に就いていた吉川と相談したところ、吉川は、原告会社の協力のもとに、生コンクリート製造業を行うことになった。
そして、吉川は、原告会社の泉大津支店に隣接する原告明所有地約五〇〇坪を借り受け、右土地に生コンクリート製造プラントを建設した。右土地は、原告明が原告会社が従来の事業に加えて生コンクリートの製造を行う旨大阪府に届出て、大阪府の土地の払下げを受けたものであった。吉川及び妻の吉川禎子は、昭和六〇年九月九日、生コンクリートの製造、販売を目的とした日本一を設立し、吉川は、その代表取締役に就任した。日本一は、右プラントを原告会社から有償で借り受け、生コンクリート製造事業を開始した。なお、右土地の借受けに関する契約書は、作成されていない。
(3) 日本一は、昭和六一年八月、JIS規格を取得し、順調に収益を上げていたことから、原告会社は、事業の拡大を計画し、同年秋ころ、原告会社貝塚支店の付近の土地を大阪府から借り受け、右土地に生コン製造プラントや事務所等の施設の建設を始め、さらに、昭和六二年初めには、大阪市西成区所在の原告明所有地上にも、生コンクリート製造プラント等の建設を始めた。
(4) 重雄は、昭和五五年五月、原告明の娘の左知子と婚姻し、その後まもなく原告会社の取締役に就任するとともに、原告会社の営業次長、支店次長等を務めていたが、昭和六一年ころ、原告会社の管理本部長の職にあった際、原告明と相談の上、原告会社所有の前記岸和田市及び大阪市西成区所在の生コンクリート製造プラントを使用して生コンクリート製造を行うことになった。そこで、重雄は、原告明の娘である規子が昭和五八年に設立していた開洋砂利工業株式会社の経営権を取得してその代表取締役になり、日本一に倣って商号を「国土一」と変更した上、岸和田市所在の原告会社の生コン製造プラントを借り受けて、昭和六二年六月ころから、生コンクリートの製造を開始した。国土一は、右プラントの修理代や消耗品などの費用は負担し、運転手の休憩室を建築したものの、プラント使用の対価は支払っておらず、右プラントの借受けに関する契約書もない。
(5) さらに、重雄は、自らが昭和五八年に設立した大阪砂利工業株式会社の商号を、日本一及び国土一に倣って「五洋一」と変更した上、前記大阪市西成区所在の原告会社の生コンクリート製造プラントを有償で借り受けて、昭和六二年九月ころから、生コンクリートの製造を開始したが、日本一及び国土一と同様、プラントの借受けに関する契約書は作成していない。
(6) 原告会社は、自ら作成したパンフレットで、三社を子会社と称し、原告と三社を併せて眞壁組グループと紹介していたし、日本一及び国土一は、それぞれのパンフレットにおいて、原告会社を販売総代理店とか関連会社などとして、紹介している。原告会社、三社及び成進の役員や株主構成は、別表(略、以下同じ)3記載のとおりであって、平成元年六月一〇日以降は、原告会社と三社の役員を兼任している者はなく、また、原告会社の株主で日本一及び国土一の株主になっている者はいない。そして、原告会社も、日本一及び国土一の株式を保有していない。
(二) 成進における業務並びに成進と原告会社及び三社との関係
(1) 生コンクリートは、固結性があり、製造後短時間のうちに納入しなければならないため、輸送方法の確保が重要な問題である。吉川は、輸送業務に明るくなかったことから、日本一の製造した生コンクリートの輸送は、すべて専門の輸送業者に委託することとした。そして、昭和六〇年二月ころ、知人の弟である辻畑が伊(ママ)坂尹(以下「伊坂」という。)と共に、日本一の製造した生コンクリートの輸送を引き受けることとなり、辻畑及び伊坂は、同年三月ころから、ミキサー車の運転手の募集を開始した。辻畑及び伊坂は、一二台のミキサー車と一二名の運転手を確保し、同年一〇月に操業を開始した日本一の事務所内に机を持ち込み、輸送業務に当たることとなった。その後、辻畑は、同年一一月二八日、知人からの借金を出資金に充てて成進を設立し、その代表取締役に就いた。そして、成進は、辻畑が行っていた日本一の生コンクリート輸送の業務を引き継いだ。
(2) 国土一も、製造した生コンクリートの輸送のため、輸送業者を確保する必要があったが、重雄は、前記日本一と同様の理由から、これを専門の業者に委託することとした。そこで、重雄は、国土一の操業開始に先立ち、運送業等を営む知人の箕野馨(以下「箕野」という。)に生コンクリートの輸送を依頼していた。国土一は、さらに、以前から五洋一の製造した生コンクリートを輸送していた北雄及び成進にも輸送を委託することとし、昭和六三年四月二一日、北雄及び成進との間で、輸送委託契約を締結した。右国土一と成進との契約の内容は、輸送代金を毎月二五日に原告会社から成進に対して直接支払うなど、おおむね日本一と成進との間の後記契約と同一であったが、最低保障額については独自に定められた。なお、右北雄は、昭和六二年四月に設立された会社で、原告会社の砂利の販売先であった株式会社北栄産業の代表者北池春雄の住所地に本店を置き、同社の取締役の南信子が代表取締役に就任している。
(3) 国土一の製造する生コンクリートの輸送は、右認定のとおり、箕野、北雄及び成進が行っていたが、運転手に対する配車は、箕野の部下の窪幸一(以下「窪」という。)が国土一の事務所内に机を置いて行っていた。箕野は、昭和六三年夏に死亡し、窪が右業務を引き続き行いたい旨申し出たため、国土一は、同年八月二一日、北雄との間で、前記成進との間で取り交わされたのと同内容の契約を改めて締結する一方、北雄は、一興代表取締役と称する窪との間で、下請運送契約を締結し、それまで箕野の下で国土一の生コンクリートの輸送に当たっていた運転手も、その後は、窪の下で同様の業務を続けることとなった。
なお、窪は、右下請運送契約締結後の昭和六三年九月に、一興を設立し、その代表取締役に就任したが、窪が行う業務の態様は、従前と変わるところはなかった。
(4) 日本一の製造した生コンクリートを輸送するためには、多数のミキサー車と運転手が必要であったが、ミキサー車を購入するには多額の費用を要した(大型車一台につき一〇〇〇万円以上)ことから、辻畑は、運転手にミキサー車を購入させ、運転手が収入の中からその代金を支払い、代金完済後ミキサー車の所有権を取得するとの方法を採ることとした。このようにして、運転手が購入したミキサー車の使用者名義は、吉川とされていたが、これは、ミキサー車の販売店が日産ディーゼル奈良販売株式会社であったことなどから、奈良県で登録する必要があり、また、車庫証明取得の便宜から、奈良県に居住していた吉川の名義を利用したためであった。
(5) 日本一の操業開始当時、日本一と辻畑との関係でも、辻畑と運転手との関係でも、契約内容を明確にした書面はなく、契約の内容は、口頭の話合いにより決められていた。運転手に支払われる報酬は、輸送した生コンクリート一立方メートルについて定められた単価に基づいて計算され、運転手は、運転日報に記載した毎月二〇日までの輸送実績に基づき、当月二五日に請求するものとされていた。しかしながら、成進と運転手との間では、その収入を確保するため、一日につき、大型で二万五〇〇〇円、小型で二万二〇〇〇円の最低保障金額が定められ、その月の輸送実績に基づいて計算した金額が右最低保障額に基づいて計算した金額に満たない場合には、最低保障額による金額を支払うこととされていた。なお、成進から運転手への支払いは、当初は毎月二八日とされていたが、その後運転手の希望を容れ、毎月二五日に支払うこととなった。また、前記運転手の購入したミキサー車の代金は、右運転手が受け取る報酬から控除され、販売店に支払われていた。
(6) 辻畑は、運転手から請求のあった金額に手数料を加えた金額を日本一に請求しており、日本一は、右金額を経費として原告会社に請求していた。当初原告会社は、日本一に対し、翌月二五日に右経費を手形や小切手で支払い、日本一は、これを現金化して、その月の二八日に成進に支払っていた。しかし、このような方法では運転手への支払いが期限後になってしまうため、辻畑の要求により、日本一は、平成三年一一月以降、原告会社に対し、原告会社が日本一に支払うべき代金のうち日本一が指定する金額を日本一指定の口座に振り込むよう求め、原告会社もこれに応じることとなった。右日本一が指定した口座は成進名義の口座であり、原告会社は、毎月二五日に、右口座に代金を支払い、同日、辻畑から運転手に対して報酬が支払われるようになった。
なお、昭和六〇年一〇月ころ以降、運転手が成進に提出する報酬請求書の名義は、各運転手の名字を冠した商店名であった。
(7) 成進の登記上の本店所在地は、辻畑の自宅とされていたが、実際の業務は、日本一の事務所内に机を持ち込んで行われていた。その態様は、日本一の西橋製造部長が成進の取締役の土井に対し、翌日の出荷予定表を渡し、土井は、右予定表に基づいて配車計画を立て、その日の夕方に、日本一の事務所の窓に翌日の運転手の出勤時刻を記載した紙片を貼って、運転手に知らせていた。そして、運転手は、翌日、右記載に従って日本一の工場に出勤し、タイムカードに出勤時刻を打刻していたが、右タイムカードの打刻は、被告の日本一分会公然化の直前から行われなくなった。運転手は、呼び出されるまでは、日本一の工場内に設けられた休憩室やミキサー車で待機し、呼出しを受けると日本一の生コンクリート製造プラントから生コンクリートを自分のミキサー車に積載し、土井の指示に従って、工事現場に生コンクリートを輸送し、これを納入した。
(8) 右生コンクリートの輸送に当たり、運転手は、土井から日本一の伝票(四枚綴り)の交付を受け、納入先でサインをもらった上で、受領書、納品書を日本一に持ち帰った。また、運転手は、辻畑から、現場での挨拶の励行を指導されていた。
日本一の工場は原則として日曜日に休業していたため、運転手は、これに合わせて休みをとっていたし、運転手が前記出勤時刻に遅刻した場合でも、出荷の順番が後回しにされるだけで、特段の不利益を受けることはなかった。
(9) 運転手が乗務するミキサー車は、すべて同じ緑色に塗装され、そのミキサー部分には、日本一の社名が白地で記載されていたが、これに関し、日本一から運転手に対し、毎月五〇〇〇円の看板料が成進を通じて支払われていた。右ミキサー車の車検、修理費や燃料代等の費用は、いずれも運転手が負担していたし、運転手の収入についても、諸税の源泉徴収はなく、税の納付は、各運転手が申告して行っていた。また、ミキサー車の使用者名義は、前記のとおり、吉川とされていたが、それは、代金が完済されるまでの間のことであって、運転手は、代金完済後、所有者はもとより、使用者の名義も自己に移転することができた。
成進は、運転手に対して、成進や運転手の名前が入った作業服を毎年二着ずつ交付して(一着のみ無償)、仕事の際にはこれを着用するよう指導していたほか、安全帽を渡していたし、日本一は、ミキサー車に無線機を設置したり、運転手に高速道路の通行券を配布していたが、これらの措置は、いずれも無償で行われた。
(10) 前記のとおり、成進と運転手との間には、日本一の操業以降、明文の契約書はなく、契約内容はすべて口頭で決められていたが、昭和六三年ころ、成進と運転手との間で、次の内容の覚書(<証拠略>)が取り交された(なお、覚書中、甲とあるのは成進、乙とあるのは運転手)。
「 株式会社成進と 商店との間において下記の通り協定し覚書を交換する。
1 購入車輌代金は 商店の毎月の収入より差引く。
2 車輌代金分割終了後は乙に無償で車輌を引渡す。
3 車検修理、諸経費(従(ママ)量税、自賠責、自動車税、取得税、保険、燃料、オイル、タイヤ)、代金はすべて乙の負担とする。
4 成進は乙に対し経済事情の変動、業務上の都合により1ケ月前に予告をして解約することができる。
5 乙は本件業務の遂行に当っては成進の営業上の秘密を保持し成進の不利益となるような行為を行ってはならない。
6(1) 乙は本件業務の遂行に当り成進の業務に重大なる事態又は支障が発生しもしくは発生する恐れがある場合には除去防止に必要適切な措置を講じ遅滞なく成進に報告しなければならない。
(2) 前項の場合甲は必要に応じて乙に対し適切な助言指導を行う。その場合の諸経費は実費乙が負担するものとする。
7 免責金額は乙の負担とする。
8 乙は甲に対し別紙保証人の書類を提出しなければならない。
9(1) 乙は甲に対して本件業務の遂行の対価として料金を支払う。
(2) 前項の料金は経済事情の著しい変化、その他甲又は乙が改訂の必要を認めた時にはその都度、甲、乙、協議の上改訂する事ができる。
10 乙の売上高の %は甲が収受することができる。
11 覚書は締結の日より有効期間を定めず甲、又は乙より別段の意思表示がない限り自動的延長し以後これにならう。
12 得意先の苦情の多い場合には休車させる事もある。」
また、運転手は、右覚書とともに、次の内容の誓約書(<証拠略>)を成進に差し入れた。
「 私は貴社と商取引を維持する上は、貴社との契約事項及び諸規則や約束等の定めを誠実に遵守することは勿論自己の職務に対し責任を重んじ、亦取引先の定められた諸規則や指示命令に忠実に従い職務の遂行に務めると共に、職場秩序の保持に絶対協力し一切貴社始め各取引先及び出入業者に迷惑をかけない事を誓います。
万一、上記に違反した場合は如何なる処分を受けても、亦商取引を停止されても異議は申しません。」
(11) 成進は、国土一の製造する生コンクリート輸送のため、新たに運転手を集めたが、報酬が毎月二五日に原告会社から直接成進に支払われることなど、おおむね日本一と運転手との間の契約条件と同一であったが、成進は、運転手から一人につき一か月当たり五万円の手数料の支払いを受けるものとされていた。
(12) 成進においては、日本一及び国土一を担当する運転手及びミキサー車がそれぞれ分けられ、原則として固定化されていたが、成進の指示により、本来の担当以外の会社の製造した生コンクリートを輸送することもあった。また、国土一担当のミキサー車も、日本一担当と同様の緑色に塗装され、そのミキサーには「国土一生コン」と白字で記載されており、また、ドアには「株式会社成進」と記載され、成進の住所や電話番号が記されており、日本一の場合と同様、運転手に対して、看板料が支払われていた。なお、国土一担当のミキサー車にも、国土一により無線が設置されていたが、その使用料は、運転手の毎月の収入から控除されていた。
(13) 下堂園等(以下「下堂園」という。)は、ダンプカーを所有し、輸送業を営んでいたが、昭和六三年三月、川本の紹介で成進と契約を結び、国土一の製造する生コンクリートを輸送するようになった。下堂園は、その際、前記誓約書を成進に差し入れたが、ミキサー車については、成進に代金を支払って、小型ミキサー車の所有権を取得した。なお、下堂園は、成進との契約に先立って、辻畑から、仕事の内容が眞壁組の生コンクリートを輸送するものであることを聞かされていたが、三社の何れを担当することになるかは未定である旨告げられていた。
一興の登記上の本店所在地は、窪の自宅とされていたが、実際の業務は、国土一の事務所内で、国土一から机を借り受けて行われていた。その態様は、国土一の谷口が窪や一興の取締役兼営業部長の鍵武晴に対し、翌日の出荷予定表を渡し、窪らは、右予定表に基づいて配車計画を立て、その日の夕方に、国土一の事務所の窓に翌日の運転手の出勤時刻を記載した紙片を貼って、これを運転手に知らせていた。そして、成進や一興と契約している運転手は、翌日、右記載に従って国土一の工場に出勤し、タイムカードに出勤時刻を打刻していたが、右タイムカードの打刻は、被告の国土一分会公然化の直前から行われなくなった。運転手は、呼出しが行われるまでは、国土一の工場内に設けられた休憩室やミキサー車で待機し、呼出しを受けると国土一の生コン製造プラントから生コンクリートを自分のミキサー車に積載し、窪らの指示に従って、工事現場に生コンクリートを輸送し、これを納入した。
右生コンクリートの輸送に当たり、運転手は、窪から国土一の伝票(四枚綴り)の交付を受け、納入先でサインをもらった上で、受領書、納品書を国土一に持ち帰った。また、運転手は、窪らから、現場での挨拶の励行を指導されていた。
(三) 本件紛争を巡る被告と原告会社との協議等
(1) 成進において、運転業務を行っていたミキサー車の運転手らは、平成元年春ころから、被告への加入の動きが始まり、同年六月一二日、日本一の製造した生コンの輸送を担当していた大型車の運転手一一名で構成された日本一分会が公然化され、さらに、同年七月四日、小型車の運転手七名を組合員とする被告国土一分会が結成された。また、同様にして、被告五洋一分会も作られた。
(2) 日本一分会は、同日付けの書面で、原告会社、日本一及び成進に対し、労働組合加入通知書(<証拠略>)及び団体交渉申入書(<証拠略>)を、それぞれ提出したが、原告会社及び日本一は、同月一九日付けの書面で、使用者としての立場にないことを理由に団体交渉には応じられない旨返答し(<証拠略>)、成進も同様の回答をした。日本一分会は、同月二一日付けの書面で、原告会社、日本一及び成進に対し、再度、団体交渉を申し入れた(<証拠略>)が、原告会社、日本一及び成進は、前記と同様の理由で拒絶した(<証拠略>)。
(3) そこで、被告は、同月二六日、大阪府地方労働委員会に対し、原告会社、日本一及び成進との団体交渉の斡旋を申請した(<証拠略>)。原告会社、日本一及び成進がこれを辞退した(<証拠略>)ので、同年七月二四日、右各斡旋申立てを取り下げた(<証拠略>)。
被告は、事前に、原告会社、日本一及び成進が右斡旋に応じないつもりであることを知り、同年六月三〇日、大阪府地方労働委員会に対し、日本一及び成進を相手方として、被告との団体交渉の応諾を求める救済命令を申し立てた(<証拠略>)。
(4) なお、日本一分会が公然化した直後に、分会員が日本一でタイムカードの打刻に使用していたタイムレコーダーが引き上げられたり、辻畑が分会員に対して差別的発言をしたり、川本など分会員のミキサー車のフロントガラスが割られたり、それまで認められていた日本一の敷地内の夜間駐車を日本一が一方的に廃止する旨通告するなどの事件が相次ぐようになり、被告は、原告会社や日本一、成進に対し、抗議文を送付したが、いずれに対しても応答はなかった。
(5) 一方、国土一分会に関しても、公然化した同年七月四日付けの書面で、原告会社、国土一及び成進に対し、労働組合加入通知書(<証拠略>)及び団体交渉申入書(<証拠略>)を、それぞれ提出したが、原告会社、国土一及び成進は、使用者としての立場にないことを理由に団体交渉には応じられない旨、文書で回答した(<証拠略>)。
(6) 右の動きと並行して、原告明は、知人の田中裕を仲介に立て、同年一〇月一六日から平成二年二月にかけて、数回にわたって、紛争の収拾策についての交渉を重ねた結果、分会員の輸送する生コンクリート一立方メートル当たりの運賃の二〇〇円引き上げること、分会員の仕事量を確保するため、成進の所有するミキサー車(シルバー車)を原則として増加しないこと、分会員の雇用主体を田中の経営する会社とし、原告明が連帯責任を負うことなどの方向で話合いが進められた。しかし、大型ミキサー車の輸送代金の決定方法等について最終的に合意に至らず、右交渉は、同年三月ころ、決裂するに至った。そこで、被告は、同年四月上旬、争議に入ることを決定し、以来被告の組合員は、業務に就かなくなった。
二 右認定の事実に基づき、原告会社の使用者性について検討する。
1 被告は、三社及び成進が原告会社を中心とした眞壁組グループを形成し、これらの会社は、法形式上は別個独立の法人格を保有しているものの、その実体は三社が原告会社の生コンクリート製造部門、成進が原告会社の生コンクリート輸送部門として機能しており、実質的には単一の存在であるから、被告の日本一分会員、国土一分会員との関係において、眞壁組グループの頂点に立つ原告会社は、使用者性を有する旨主張する。
2 確かに、前記のとおり、三社、成進は、原告会社と業務上密接な連携を保ち、相互の間においては、親戚や知人等各社の役員が原告明と比較的近しい人間であることや施設の利用に便宜を計るなど、人的、物的の繋がりが認められるのではあるが、これらの会社は、それぞれの目的や経緯に応じて別個に設立され、法律上も独立した法人格を有しているのである。そして、その経営についても、それぞれの会社が独立の主体として行われている。そして、原告会社と被告の分会員との間には、何らの私法上の契約関係もないことにかんがみれば、原告会社を中心とするグループが存在し、グループ各社が経済的な結合関係を有しているとの一事をもって、原告会社が被告の組合員の実質的な雇主であり、使用者たる地位に立つと認めることはできない。
よって、被告の右主張は、採用しない。
3 次に、被告は、日本一や国土一、成進の法人格の形骸化や濫用を主張するが、前記判示のとおり、日本一や国土一、成進も、独立の法主体として事業を営んでおり、原告会社と密接な経済的関係を保ちながら、それぞれの計算で業務を遂行しているといえる。そして、平成元年六月一〇日以降は原告会社と日本一、国土一及び成進との間に役員の兼任がないこと、原告会社は日本一、国土一及び成進の株主ではないこと、原告会社と日本一、国土一及び成進との間に経理の混同や資産の共有が窺える事情もないこと、原告会社が人的、物的に日本一、国土一及び成進に支配を及ぼしている形跡も窺えず、さらには、原告会社が原告明などの相続対策や組合対策のため、ことさらに法的規制を潜脱しようとの意図をもって、日本一、国土一及び成進を設立したり、これを利用したりしたような事情も認められないことを考えれば、日本一、国土一及び成進の法人格が形骸化しているということはできないし、また、法人格を濫用していると認めることもできない。
よって、被告の右主張は採用しない。
4 被告は、さらに、原告会社は、被告の組合員との関係において、労組法七条の使用者たる地位にある旨主張するが、前記判示の事情に加えて、被告の組合員の業務上の指示は土井や窪が行っており、原告会社は関与していないこと、被告の組合員の受け取る報酬についても、成進との協議によって決定されていることからすれば、原告会社が成進の運転手たる被告の組合員の労働条件の決定について、具体的、実質的な支配力を及ぼしていると認めることはできないから、被告の右主張も採用できない。
もっとも、前記認定のとおり、原告明と武が原告会社、日本一、国土一や成進との間の紛争を解決するため、田中を仲介に立てて、協議を行ったのではあるが、右紛争が日本一、国土一などと連携関係をもつ原告会社の営業にも影響を及ぼすことは明らかであり、原告会社としても、無関心を装うことはできない性質のものであることを考えれば、原告明が、原告会社の代表者としての立場から、右紛争の早期かつ一括的な解決を目指して、右協議に臨んだことも理由があるといえるのであり、このことをもって、原告会社が被告の組合員の使用者たる立場にあることを根拠付けることはできない。また、原告会社が日本一及び国土一に支払うべき代金を成進の口座に振り込み、成進がこれを運転手の報酬として支払っているが、前記のとおり、このような扱いも、運転手への報酬支払いの便宜を図るため、日本一及び国土一の指示に基づいて原告会社が行っていたにすぎないのであり、原告会社が運転手の使用者としての立場に基づいて行ったものではないから、右事実が前記判断の妨げになるものではない。
5 のみならず、原告会社が、被告の組合員との関係において、労組法七条の「使用者」に当たるというためには、被告の組合員と直接の契約関係にある成進との関係が労働契約関係であることを要すると解する。
しかしながら、前記認定の事実によれば、成進の運転手と成進との間には明確な雇用契約書は取り交されておらず、その業務の実態も、運転手がミキサー車を所有して輸送に当たっていること、運転手に支払われる報酬は、最低保障はあるものの、輸送量に応じて計算された金額が原則とされていること、諸税については、源泉徴収はなく、各自申告の上、これを納付していること、休憩時間は特段の拘束はなく、自由に過ごすことが認められていること、遅刻に対しても、特段の不利益な処分が行われていないことなどの事実が認められ、これらの事情に徴すれば、そもそも、成進の運転手と成進との間の法律関係は、雇用ではなく、請負契約の性質を有する運送委託契約であったとも解されるのである。
6 そうすると、いずれにしても原告会社は、被告の組合員との関係において、労組法七条の使用者に当たらないといわなければならない。
よって、被告の右主張は採用しない。
三 被告は、原告明の自宅付近における演説につき、その内容が真実であり、あるいは、これを真実と信じたことに相当な理由があった旨主張するが、右に述べたとおり、被告の行った演説は、労組法上の争議行為としての保護を受け得るものでない上、前記事情に照らせば、右演説が専ら公共の利益を図るために行われたとはいえないから、仮に、被告主張のような事情があったとしても、責任を免れることはできない。
四 以上のとおり、被告の原告らに対する前記権利侵害行為は、争議行為として違法性が阻却される余地はないし、他に違法性を免れさせる事情も見当たらないから、原告らに対する不法行為を構成するというべきである。
第四損害
一 原告会社の関係
1 前記のとおり、被告の行った要請書の配布、生コンクリートの搬入妨害は、いずれも原告会社の営業権を侵害する不法行為であるから、被告は、原告会社に対し、右各行為によって原告会社に生じた損害を賠償する責任を負担しなければならない。
2 右損害の額について、原告会社は、右不法行為が行われる前の平成元年一月から一〇月までの期間と被告の右不法行為後の平成二年の一月から一〇月までの期間における生コンクリート及び建設材料の売上げを比較し、その減少した分の粗利の合計一億一五五三万二一五六円を主張する。
しかしながら、生コンクリートや建設材料の売上げは、景気の状況はもとより、他の種々の要因によって変動するものであることが容易に推測できる上、本件証拠上前記各要請書が原告会社の取引先のどの範囲に配布されたのか、右各要請書を受け取った原告会社の取引先がどのような態度に出たのかなどの事情が明らかではないことに照らせば、原告会社の主張する損害の発生と被告の行為との因果関係についての証明がないといわなければならず、したがって、原告会社主張の右金額をそのまま被告の不法行為による損害と認めることはできない。
3 もっとも、前記認定の事実及び証拠(<証拠略>)によると、被告の組合員よる生コンクリート搬入の妨害によって、原告会社は、熊谷組から平成二年四月二七日、残余分三五〇〇立方メートルの生コンクリートの供給契約を解除されており、右解除によって生じた損害は、被告の不法行為と相当因果関係があるといえるから、原告会社の損害賠償請求については、右の限度で認めることができる。そして、右証拠(<証拠略>)によれば、右解除の対象となった三五〇〇立方メートル分の売上代金は、三九二〇万円であり、別表1、2(原告らの訴状添付の別表)によれば、原告会社における平成二年四月の生コンクリートの売上における利益は、一・八パーセントであるから、右三九二〇万円に一・八パーセントを乗じた七〇万五六〇〇円が損害額となる。
二 原告明、同和子及び同カルの損害
1 原告明は、被告の組合員による前記演説によって、平穏な生活を害された上、侮辱により名誉感情を傷つけられ、さらに、公然事実を摘示され、その名誉を毀損されたというべきであり、右演説によって、多大の精神的苦痛を被ったことは、容易に推測することができる。そして、右精神的苦痛に対する慰謝料は三〇万円とするのが相当である。
2 原告和子及び同カルもまた、前記演説によって、平穏な生活を害された多大の精神的苦痛を被ったことは、容易に推測することができる。そして、右精神的苦痛に対する慰謝料は各自二〇万円が相当である。
3 また、原告らが本件の追行に要した弁護士費用としては、原告会社が一五万円、原告明が六万円、原告和子及び同カルが各四万円とするのが相当である。
第五差止請求
一 原告会社の関係
1 前記のとおり、被告の要請書の配布、生コンクリートの搬入の妨害は、原告会社の営業権を侵害する行為というべきである。営業権は、営業活動を行う者がその活動につき第三者から不当な妨害を受けない権利として保障されていると解すべきところ、右営業権に基づく差止め請求は、第三者によって、現に右侵害行為が継続して行われ、かつ、将来にわたって継続して行われる蓋然性が相当高い場合において、認められるものと解するのが相当である。
2 そして、原告会社の申請に基づき、平成二年一〇月一五日、被告を債務者とする請求の趣旨第1項同旨の仮処分決定がなされた(この事実は、当事者間に争いがない。)こと、その後、被告及び中岸昭を会長とする同年一一月六日付けの「生コンクリート製品の品質管理を監視する会」と称する団体名の原告会社の生コンクリートの品質が劣るなどと記載された要請書が原告会社の取引先に配布されたこと(<証拠略>)が認められるが、被告の前記妨害行為や右行為から本件口頭弁論終始時(平成七年一二月二二日)までの間に五年以上を経過していること、原告会社は、その間、被告によって同様の妨害行為がなされたことを主張もしていないし、右事実を認めるに足る証拠もないこと、本判決において、前記判示のとおり被告の行為を違法であると判示し、損害賠償を命じていることなどの事情を総合すると、被告の原告会社に対する右妨害行為が現に継続しており、また、将来にわたって継続する蓋然性が相当程度に高いものと認めることはできない。
3 よって、原告会社は、被告に対し、右妨害行為の差止めを求めることはできない。
二 原告明、同和子及び同カルの関係
1 前記のとおり、被告による演説は、原告明、同和子及び同カルの生活権や原告明の名誉権(人格権)を侵害する行為であるが、これらの行為は、その性質上、人の尊厳を直接侵すものであり、完全な事後的救済が困難であることに鑑みれば、その侵害を未然に防止する必要性が強いというべきであるから、現に侵害行為が行われ、かつ、将来においてもその危険性が極めて高い場合には、差止めによって、保護するのが相当である。
2 そして、前記のとおり、被告による演説行為を正当化する理由がないこと、原告明、同和子及び同カルの申請に基づき、被告を債務者とする請求の趣旨第2項同旨の仮処分決定がなされたことやこの仮処分に違反した場合に金員支払いを命ずる間接強制決定がなされている(<証拠略>)こと、平成四年一月に至るも原告明方に被告の組合員多数が抗議に訪れていること(<証拠略>)などの事情を総合すると、被告による原告明の自宅付近での演説を差止める必要性は、現時点においても強いというべきである。
3 よって、被告に対し、右行為の差止めを命ずるのが相当である。
第六結語
以上の次第で、本訴請求のうち、原告明、同和子及び同カルの差止請求、原告会社につき八五万五六〇〇円の損害金、原告明につき三六万円の損害金、原告和子及び同カルにつき各二四万円の損害金並びに右各損害金に対する本件不法行為の後である平成二年一二月一五日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 長久保尚善 裁判官 井上泰人)